このサイトを作ろうと思った理由
長男が産まれる前まで私は総合病院で内科医として勤務し、日々診療を行なっていました。コロナ禍に長男を出産しましたが、妊娠中・出産直後には特に異常はありませんでしたが、その後、発達の遅れや異常所見が見つかり、生後半年から医療的ケアが必要になりました。
そして長男が3歳の頃に大きく体調を崩し、人工呼吸器・気管切開・中心静脈栄養・胃ろうなど、複数のデバイスを使用する重症心身障害児となり、私はその母であり、そして主介護者となりました。
私は医療者なので手技自体は理解できますが、その前後の準備や物品の洗浄・保管、どれくらいの時間がかかるのか、そういった「生活の部分」はまったく分かりませんでした。病院での知識や経験が、在宅生活ではほとんど生きなかったのです。

長男の最初の医療的ケアは経鼻胃管でした。退院時、注入の時間は30分の指示でしたが、吐いてしまうため、1〜2時間くらいかけて1回の注入をしていました。その前に物品、薬剤、ミルク/栄養剤の準備に30分以上、物品の洗浄、消毒、片付けに30分以上かかっていました。
1日4回の注入でしたが、だんだん時間が押してきてしまい、最終の注入は日付を超えてから開始していました。
在宅で気づいた「生活の知恵」の力
在宅での生活を支えてくれたのは、医療の知識よりも“生活の知恵”でした。
たとえば、経管栄養のボトルをどこにかけると便利か、シリンジが固くなった時どう工夫すればいいか、同じ物品を限られた支給の中で大切に使いまわすにはどうしたらいいか。
そういった日々の小さな工夫を、訪問の支援者さんや、同じように在宅で過ごす親御さんたちから教えてもらいながら、我が家の生活は少しずつ便利で過ごしやすくなっていきました。
病院ではあたりまえに「使い捨て」「補充ありき」だった物品たちが、在宅では「次の支給までどうつなぐか」「災害用の予備をどう残すか」という現実的な工夫の連続で成り立っています。
それは、医療行為というよりも暮らしそのものの知恵。そして、その知恵の積み重ねこそが、在宅を支えていると感じています。

経管栄養に使用するシリンジは月に支給される本数が決まっていますが、胃ろうからペースト食を注入すると場合によっては1回で滑りが悪くなることも。
食用油をゴムの部分に塗って滑りをよくする方法を教えていただきかなり楽になりました。
医療者として感じた“見えない壁”
長期入院から自宅に戻る時、私が感じた最大の不安は医療行為そのものではなく、「どう生活すればいいのか」という部分でした。
でも病院では、その「生活の知恵」を教えてもらえる人がほとんどいません。それは、医療者が在宅のリアルを知らないから。決して関心がないわけではなく、知る機会がないだけなのだと思います。
私自身、病院勤務の頃は患者さんのことを一生懸命に考えていたつもりでしたが、在宅生活を“想像すること”ができていませんでした。どんな環境で、どんな工夫をしながら、どんな時間の流れで暮らしているのか。知ろうとしても、知る方法がなかったのです。
このサイトに込めた想い
私は長男が生まれてから、物理的には3年間、気持ちの面では4年ほど、外とつながる勇気が持てず、引きこもるような時間を過ごしていました。
少し気持ちが落ち着き、SNSを見ることができるようになったとき、こんなにも多くの方が発信をし、たくさんの情報があることに驚き、感動しました。
しかし同時に、情報がたくさんあるからこそ、病気や障害を告知されたばかりの頃や、心の余裕がない時には、それらを見ることができなかったり、信頼できる情報を探すことが難しいと感じることもあります。
子どもの障害が分かったとき、医療的ケアが増えたとき、私自身がまさにそうでした。
その時、そばにいてくれる医療者や支援者に相談して、
「それは分からないから自分で色々探してみて」ではなく、
「こんな工夫をしているお家もあるよ」と教えてもらえたら、救われる方がたくさんいるのではないかと思うのです。
きっと最新の知恵は、当事者さんやご家族が日々の生活の中で実践されている工夫や、当事者団体の仲間たち、SNSや様々なコミュニティの中にあります。
このサイトは、そうした知恵にたどり着くまでの間、そして人とつながることができるようになるまで、そばで支えてくださる医療者・支援者の方の一助になれたらという思いから作りました。
このサイトに掲載されている情報は、エビデンスや研究に基づいたものではありません。
「他のお家では、こんなふうにしているよ」という、いわば生活の知恵の共有です。
けれど、その一つひとつの知恵には、実際の生活の中で生まれたリアルな工夫と気づきが詰まっています。
医療者・支援者の方がそれを知り、必要な方に届けることができれば、
専門的な視点から「もっと安全に」「もっと負担を減らせる方法があるかもしれない」と新しい意見が交わされ、そこから新しい支援の形や物品の改善が生まれるかもしれません。
このサイトは、生活の知恵と専門知識が出会い、
お互いに学び合いながら支援をより良くしていく場所。
暮らしと医療が一緒に育っていく、そんな場でありたいと思っています。
どうしてこのサイトは医療者・支援者に向けてなのか
このサイトでは、在宅で生まれた知恵を医療者・支援者の方に向けて公開することを目的としており、ログインできるのは医療者・支援者(職業や所属等を申告していただく審査制)と知恵を投稿して頂いた当事者・ご家族を考えています。
それには、当事者・ご家族・支援者のみなさまに関わる
大切な理由があります。
① 投稿者の匿名性と生活の安全を守るため
在宅生活の工夫には、ご家庭の状況や生活背景がにじむことがあります。
そのため、投稿してくださる当事者・ご家族の匿名性と生活の安全を守ることを大切にしています。
個人が特定されないよう配慮し、誰でも自由に閲覧できるフリーアクセスではなく、
サイトの理念やルールに同意してくださった方のみが利用できる仕組みとしています
② 支援者が安心して学び合える環境をつくるため
当事者・ご家族と支援者では、見えている景色や担っている役割が少し異なります。
医療者・支援者が日常的に使っている専門用語や言い回し、考え方が、
当事者・ご家族から見ると気に触れてしまったり、誤解を生むこともあるかもしれません。
また医療者は、自分の発言の責任や影響力を意識するあまり、
率直に意見を交わすことが難しくなることもあります。
このサイトでは、当事者・ご家族から生まれた生活の知恵を、
医療・支援の視点からさらに発展させていくことも目的の一つとしています。
そのため、医療者・支援者同士が安心して意見交換し、学び合える環境を守ることを大切にし、
当事者・ご家族との直接的なやり取りは最小限とする形にしています。
③ 当事者・ご家族には “知恵だけで完結しないつながり” を大切にしてほしいから
私自身、先輩ママから知恵を教えてもらったとき、一番の支えになったのは、知恵そのものより「話せた」「つながれた」という関係でした。
こちらのサイトでは当事者・ご家族同士のつながりを作る役割を担っておらず大切なつながりが生まれにくくなってしまいます。
当事者・ご家族が日々の暮らしの中で育ててきた知恵を、医療者・支援者が学び、支援の現場に還元していくための場所です。
それぞれの立場を尊重しながら、生活の知恵と専門知識が出会い、支援が少しずつ良くなっていく。
そんな循環が生まれることを願っています。

結び
私は障害児の母であり、同時に成人の患者さんを診てきた医師でもあります。このサイトでは、子どもに限らず、大人や高齢の方の在宅生活の知恵も集めていきたいと思っています。
年齢や疾患にかかわらず、在宅で支え合うための「生活の知恵」は、どこかで必ずつながっています。
このサイトが、すべての医療者・支援者にとって、新しい視点と学びのきっかけになりますように。
長文でしたが、最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

サイト作成者:和田 裕紀子
このサイトは、個人で運営しています。
たくさんの支援者に生活の知恵を知っていただくために、
登録料や会費はいただかず、無料で運営しています。
活動を支えてくださるご支援・ご協力を常時募集しています。
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